ヨーガ・スートラの「心の仕組み」
自らの思考、活動をただ見ていることができれば、
あなたはプルシャ(観照者)となっている。
もはや思考者でも、行為者でもない。
観照者でないとき、人は心と同化している。
心に同化している限り、人は苦しみの中にある。
心に同化しないこと、それがヨーガの目標だ。
活動には必ず心を伴う。
心が無ければ、あなたは何もできない。
話すことも、知ることも、誤ることも、考えることも、忘れることも、眠ることも、思い出すことも、覚えることもできない。
あらゆる能力は、心によって修得されるからだ。
そして、心には五つの基本機能がある。
「正知・倒錯・想像・睡眠・記憶」の五つである。
子供の発達を観察すればわかるように、
心は「睡眠→記憶→想像→倒錯→正知」の順番で発達していく。
誤った方針に沿って心が使われてしまうと、
それはあなたを苦痛・矛盾・対立・混乱・狂気へと導く。
では、それぞれの基本機能を紹介していく。
①正知
正知は「自明の能力」の中枢である。
この中枢が正しく機能すると、正しいものが直ちに明らかとなる。
考えなくても、思い出さなくても、直ちに真実がわかるようになる。
真実が直ちに明らかとなる以上、そこに選択の余地はない。
だからこそ、そこには迷いも悩みも生じ得ない。
瞑想は、最終的にこの中枢の開花へ繋がっていく。
この中枢が機能しない限り、あなたは混乱から脱け出せない。
②倒錯
倒錯は「誤る能力」の中枢である。
この中枢が作用する限り、あなたは間違いを犯し続ける。
物事をありのまま見ることができなくなる。
何を見ても、何を聞いても、あなたは誤解する運命にある。
まさに正知とは正反対の中枢である。
正知か倒錯か、どちらかの中枢が機能しない限り
悩みと迷い、つまり混乱が無くなることはない。
お酒を飲んで酔っ払うと、この中枢が作用し始める。
③想像
想像は「考える能力」の中枢である。
物事を生み出し、可能性を見出す。無い筈のものを作り出す。
芸術的な創作、科学的な発見はこの中枢によって成される。
しかし想像力の使い方を誤ると、気が狂ってしまう。
精神病棟に隔離されたくなければ、想像力の乱用は控えるべきだ。
そして、心は想像に従う。
あなた自身は、あなたの心が作り出した想像だ。
だからゴータマ・ブッダは言った。
「あなたは、あなたが想う通りの者である」と。
④睡眠
睡眠は「忘れる能力」の中枢である。
正しい睡眠は人に活力を与える。それは心の休息である。
一時的ではあるが、心は詰め込まれた知識から解放される。
活動は完全に停止し、心は無の中に没入する。
想像と記憶のセンターが作動している限り、
正しい睡眠は起こらない。心は未だ活動している。
あなたは夢を見続けて、目覚めと眠りの間を彷徨うことになる。
アーサナは身体のためにあり、睡眠は心のためにある。
正しい睡眠ができないと、人は病気になってしまう。
⑤記憶
記憶は「覚える能力」の中枢である。
知識・技術の習得は、すべてこの中枢によって行われる。
心の無意識層の中には、数多の記憶が貯蔵されている。
記憶がなければ想像できない。睡眠時に夢を見ることもできない。
正しい記憶は、あなたに明晰な判断力をもたらす。
誤った記憶は、あなたをより混乱させる。