ヨーガ・スートラの「八支則(後編)」
④プラーナ・ヤーマ(調気)
プラーナ・ヤーマは「呼吸の制御」ではない。
その本来の意味は「生命エネルギーの拡大」だった。
活動量と呼吸量は常に比例する。
活動的になればなるほど、呼吸は激しくなっていく。
活動には呼吸が必要だ。それ無しでは活動できない。
より多くの生命エネルギーが活動(呼吸)によって消費される。
つまり、活動(呼吸)はあなたを消耗させる。
快感、快楽には必ず生命エネルギーの消費(放出)を伴う。
それは老化を著しく早めてしまう。
快楽は荒廃をもたらし、あなたの渇きは更に深刻になっていく。
活動とは対照的に、無活動はあなたを潤す。
意識の有無という違いもあるが、
無活動による呼吸は睡眠中の呼吸に少し似ている。
あなたは活動(呼吸)から本格的に遠ざかっていき、
そのおかげで生命エネルギーは回復(蓄積)を始める。
そしてあなたの内側はより静寂に、より明晰になっていく。
これがプラーナ・ヤーマだ。
アーサナによって、あなたの身体は快適で安定した状態にある。
身体が本当に安らいでいれば、呼吸は微小になっていく。
もはや身体の活動はない。だから呼吸も最小限で十分だ。
遂にあなたは、自らの呼吸を見守ることができるようになる。
呼吸が小さくなっていくと、吸う息と吐く息は円環し始める。
両者は互いに孤立(分離)しなくなっていく。
波の少ない、穏やかな湖面のような呼吸となる。
無活動の呼吸が達成されると、感情にも秩序が与えられていく。
⑤プラティヤハーラ(回帰)
プラーナ・ヤーマによって、
あなたは感情や衝動から次第に距離が取れるようになっていく。
そしてあなたは帰還する。ようやく我が家に帰り着く。
詰め込まれた知識と刻み込まれた印象によって、
今まで心は苦しんできた。重たい荷物を押し付けられてきた。
学んで来たものを落とし、あなたは無垢な心へと立ち返る。
反応が落とされることによって、やがて集中が可能となる。
⑥ダラーナ(集中)
ここまで到達すれば、
あなたの意識の中に存在するものは心のみだ。
今や、心は一点に固定され得る。
集中者と集中対象はセットで存在する。
対象が一つに絞られることによって、あなたも一つになる。
対象が落とされることによって、あなた自身も落とされる。
両者が同時に消えると、スペース(空間)だけが残る。
⑦ディヤーナ(瞑想)
遂にあなたは全段階中で最も不安定で、最も高度な次元に至る。
ディヤーナはこの世で最も難しいことだ。
それは空っぽの心。
大空を漂う雲は一時的なものだ。
それは流動的で、いつ消えてもおかしくない。
「空っぽ」は非常に繊細で、非常に不安定だ。
しかも、それは偶然によって起こる。
十牛図の七番目『人牛倶忘』のように景色だけが映し出され、
そこにはもう誰もいない。だから心の投影はもう起こらない。
まるで鏡のように、心はありのままを映し出す。
⑧サマーディ(三昧)
自己を完全に喪失し、今やあなたは全体として存在する。
あなたの存在を証明できるものは一切なくなった。
だからこそ、もう二度と心身に同化することはない。
炎は消えて、空の中へ溶け去った。
もう二度と炎が戻ってくることはない。
この世にいながら、あなたはこの世を後にした。
ヨーガはその役目を終えた。あなたは訓練をやり遂げた。